「オートバックス」といえば、カー用品の店と誰もがすぐに思い浮かべることができるはず。山梨県内にもスーパーオートバックスを含め5店舗があり、お世話になったことがある人も多いのでは。
その山梨県内のオートバックス全店を経営しているのが、オートバックス山梨の大崎和彦社長。柔らかい物腰だが、話し始めると熱い想いがどんどんあふれてくる。
「うちは最強の自主管理型組織を目指しているんです」
ちょっと誇らしげな笑顔で語り出した。
同社では全5店舗で、それぞれの部門担当者にその部門のすべてを任せているという。
「今月の売上目標を掲げ、それに向けてどんな商品をいくつ仕入れて、どんな売り場にして販売していくかなど、すべてを担当者が決めて動いています。その部門の仕入れは、店長でも担当者の許可を取らなくてはできないんです」
「やり方次第で売上が伸びたり、喜んでくださるお客様が増えたり。自分なりの創意工夫があって、そこに成長を感じられたらうれしいし、仕事が楽しくなりますよね」
そんな自主管理型の組織づくりには、自身の経験が活かされている。
大崎社長は山梨でオートバックスを経営する以前は、オートバックスのチェーン本部に勤務していた。
直営店でピット担当としてスタートし、フロア長、店長、そしてチェーンを輪店して指導する本部のカウンセラーとして活躍してきた。
「直営店も担当に任せるスタイルで、店長の時には運営もチラシ作りもすべて任せてもらえるのが楽しくて、期待に応えようと頑張りました。おかげで過去にないほどの売上と利益を出すことができ、本当に楽しかったんですよね」
「この経験が染みついていたので、経営側になった時にそうしようと思ったんです」
生き生きとした表情で話す大崎社長。想いが伝わってくる。
でもオートバックス山梨の経営は、初めから上手くいったわけではない。
大事なのはやっぱり「人」
「人」が育つと「会社」も成長する
山梨のオートバックスは、初めは地元企業がフランチャイズに加盟して始めた。しかし上手くいかず、20年前にチェーン本部に営業が譲渡された。
そこで白羽の矢が立ったのが、当時、本部でカウンセラーをしていた大崎社長。
「その時、37歳でした。山梨には縁もゆかりもなかったので不安はありましたが、挑戦しがいがあるなと思ったんです。横浜のマンションを売り払い、家族を連れて山梨にきました」
以前の経営時の店舗の立て直しというマイナスから始まった経営だったが、大崎社長は前だけを見て歩み出した。
「正直、大変なスタートでした。以前の経営母体で働いていた社員は疲弊していましたね。でも素直な人ばかりで、この人たちを幸せにしなきゃいけないと思って、がむしゃらに頑張りました。そこが私の原点ですね」
それまでの従業員を1人も辞めさせることなく、毎月勉強会を繰り返し、意識を変えていく中で、社内の雰囲気が変わっていった。
「3年ほどかかりましたが、その頃から売り上げもぐっと上がりました」
「やっぱり大事なのは人ですね。店の差は人材の差だと思います。どこにでも同じ商品がほぼ同じ価格で販売されている今の時代、お客様に当店を選んでいただく理由は、やっぱり人です」
各店舗で毎月変わらずに勉強会を開いているのも、人材を育てるため。
一人ひとりが意見を出し、お互いの本音を見せ合い、理解し合えるように、いつもテーマを決めてディスカッションを行っている。
「やりがいや成長感だけでなく、助け合えるチームワークや認め合えることなども、仕事には不可欠ですから」
また正社員が多いのも、社内のモチベーションの高さにつながっている。
「当社は正社員主義です。パートの人もいますが、働けるならぜひ正社員にと声を掛けています。給料はびっくりするほど高くはありませんが、売上が伸びた年には決算賞与もガツンと出しています」
さらに同社は入社後の資格取得もバックアップしている。
「整備士の資格をもっていないけど、本当はピットをやってみたいという人もいます。うちで経験を積みながら、3級整備士、さらに2級を取ることもできます。合格すれば費用はすべて会社で出しています」
やる気のある社員には、会社もしっかりと応えて支援する。そんな社風が「自主管理型組織」をつくり上げているのだろう。
「幸せと感動を与えるカーライフ」
を提供できる会社でありたい
「車のことならオートバックス」。これがオートバックスの指針だが、オートバックス山梨はこれに加えて、「幸せと感動を与えるカーライフ」を掲げている。
「車は生活の足ですが、憧れの車を手に入れて、彼女とドライブに行ったり、家族でキャンプに出掛けたり、車は幸せな気持ちをもたらしてくれる、ものすごく夢のあるものだと思うんです」
「だからこそ、お客様に単にモノを売るのではなく、幸福感や感動を提供できる会社でありたいと思っています。モノを売るだけでは、私たちの存在価値はありませんから」
そんな人を大事にし、想いを大事にする同社が求める人材もまた、同社らしい。
「人間性が良ければいいです。そこだけです」
大崎社長は言い切る。
「良心にそむかない行動ができる正しさがあれば、いいと思います。知識や技術は後から身に着けることができますから」
そう言って大らかな笑顔を見せる大崎社長。この会社なら、きっとやりがいを感じながら楽しい仕事ができるだろう。
聞き手:佐藤 文昭(山梨大学地域未来創造センター)
※2019年2月25日にインタービューを実施しました。