「ジュエリーってものすごく古い産業で、ジュエリーそのものは古代エジプトから、ビジネスとしても数千年の歴史があります。そういうジュエリーの歴史の深みとこれからの未来に、とても興味があるんです」
生き生きとした笑顔で語るのは、株式会社光・彩の代表取締役社長深沢栄治さん。ジュエリーに対する想いが伝わってくる。
光・彩は国内外から高い評価を得ているジュエリーパーツと鍛造ジュエリーを製造、販売している国内屈指のジュエリーメーカー。
「Quality × Qualia」
最高の品質と豊穣な質感、を理念に掲げる。
それを実現しているのは、山梨県内の自社工場での完全生産。光・彩は国内、しかも自社での生産にこだわる。
得意としているのが、ピアスやイヤリング、ネックレス、カフスなど、さまざまなジュエリーのパーツ。
「ほとんどのジュエリーブランドのパーツにうちの製品が使われています。国内シェアは50%に上りますね」
それだけの支持を得ているのは、メーカーはもちろん、一般消費者のニーズにまでしっかりと応えているから。扱いやすさから着け心地、安全性まで、あらゆるニーズを追求している。
「金具パーツは人間でいうと足腰です。デザインが顔で、宝石は目。宝石を身に着けるためにはパーツは不可欠。そのクオリティはとても大事なんです」
「とくにブランドといわれるところは、ものすごくパーツにこだわります」
憧れのハイブランドのジュエリーも、クオリティの高いパーツがあってこそ完成する。
鍛造ジュエリーは
無限の可能性を持っている
完成品であるジュエリーの製造も手掛けていている光・彩は、鍛造ジュエリーに特化している。
ジュエリーの生産は加熱して溶かした金属を型に流し込んで作る「鋳物」が一般的。
光・彩は日本で昔から日本刀などをつくる際に用いられている、素材を叩くことで強度を上げる「鍛造」でジュエリーをつくっている。
最先端のマシン技術を取り入れて成形し、最新コンピューター制御の切削加工と熟練した職人の手によって仕上げる。
「非常に手間のかかるものですが、鋳物と比べて強度と精度が極めて高いんです」
強度、精度ともに高いからこそ、何回つくっても全く同じものをつくることができる。ずっと使っていても変形の心配がない。
「小さなダイヤがたくさん付いているリングなどは、素材が少しでも変形すると石がとれてしまうことがありますが、鍛造リングは石落ちの心配がありません」
鍛造ジュエリーを手掛けているメーカーは世界に数社あるが、光・彩はなかでも最後発。
「でも、うちの製品が世界で一番の硬度があります。長年生産している金具パーツをつくる技術は、鍛造が中心です。蓄積してきた技術やノウハウ、設備が、世界最高水準を可能にしています」
変形や石落ちの心配がないこととともに、デザイン性の高い美しいフォルムも光・彩の鍛造ジュエリーが支持を得ている理由。
特にブライダルジュエリーとして既に高い人気を集めている。今後さらに大きな伸びが期待される。
「鍛造ジュエリーは無限の可能性を持っています。『山梨発made in Japan』の鍛造ジュエリーを日本だけでなく世界的に広め、日本のジュエリーの地位をヨーロッパ並みに上げていきたいと思っています」
見つめているのは世界、そしてジュエリーの未来だ。
求めているのは
次の答えを考えられえる人
ここまで社長の話を伺っていると、とても順調に来られているように感じるが。
「失敗や挫折もたくさんしてきましたよ。憧れて会社に入りましたけどね」
社長は苦笑いする。
1955年に創業した同社に社長が入社したのは29歳の時。
大学院を卒業後、日本最大手シンクタンクに入社し、システムエンジニアとして活躍した。
「まだITという言葉が一般的ではないころ、その最先端で仕事をしていました。でも巨大な組織の中で仕事をしていくうちに、完結型の仕事をしたいと思うようになったんです。人をもっと幸せにする仕事がいいなと」
ジュエリーは目の前で完成品ができ、その先のお店に美しく並べられる姿、お客様がうれしそうに選ぶ様子、日々身に着ける幸せそうな笑顔、すべてが想像できた。
「でも入社後、すぐにバブルが崩壊し、それから数年で売り上げは急速に落ちていきました」
当時、取締役だった社長は大きな危機を感じた。
「何かしなくては困る。うちには設備と技術はあるが、売れる商品と顧客がいない。生き残っていくためにはどうしたらいいか考えました」
そこでブランドのOEMを展開することに。
「でも後発だったため、工夫が必要でした。そこでヨーロッパの展示会に年3回ほど通い、海外ブランドの技術を勉強して商品に落とし込み、提案しました。言ってみれば『デザイナー・技術開発付きOEM』ですね」
その結果、多くの企業に採用され、業績は無事に伸びていった。でもすぐに他企業も同じことを始めた。
次なる手として、納期、品質ともにアップさせるため、ベトナムに生産拠点を開設することに。
ベトナム人の腕は確かだったものの、人件費が予想以上に膨らみ、売上が伸びても常に赤字状態。しばらくして撤退を決めた。
「失敗ばかりでしたよ。でも、失敗から得たものもしっかりとあります」
自社工場では現在、ベトナム人が活躍している。かつての海外進出により、ベトナム人の器用さや真面目さがわかっていたので、ベトナム人を採用することに迷いはなかった。
一方で、工場では熟練の技術者が高齢化により減っていくという課題も抱えている。
鍛造ジュエリーは最後は人の手、熟練した技が必要。時間をかけて職人を育てていかなければならない。その人材が不足している。
「ほかにもさまざまな職種で人がほしいですね。どんな職種でも求めるのは、今やっていることの次の答えを考えられる人。自分で次の答えを出そうとする人です」
常に二歩、三歩先を見据え、世界を見つめて仕事に取り組んでいる社長がいるこの会社なら、次の答えを考えられる人になれるかもしれない。
聞き手:澤伸恭(山梨大学地域未来創造センター)
2019年2月4日にインタービューを実施しました。