「特殊車両ってあまり馴染みがないですよね。いろんな種類があるんですが、昼間に動いていることがほとんどないので想像しにくいですね」
優しい笑顔が印象的な池川明さんは、特殊車両の整備、販売をしている株式会社キムラの取締役統括部長。その仕事に就いてわかりやすく、丁寧に教えてくれた。
特殊車両というのは、路面清掃車や除雪車、道路維持作業で活躍するクレーン車やタイヤローラー、スキー場で使われている圧雪車やスノーマシーンなど、まさに特殊な構造や用途が特殊な車のこと。


特殊車両というのは、路面清掃車や除雪車、道路維持作業で活躍するクレーン車やタイヤローラー、スキー場で使われている圧雪車やスノーマシーンなど、まさに特殊な構造や用途が特殊な車のこと。
ちょっと照れくさそうにしながらも、誇らしげに語る。
特殊車両はそれぞれの車両に特性があり、整備もそれに応じた対応が求められる。 マニュアルはあってもそのとおりにいかないのはあたり前。マニュアルさえない車両もあり、メカニックは積み重ねてきた経験と培ってきた技術を駆使して整備にあたる。
「特殊車両は代えがきかないので、直さない限りその車両を使うお客様は仕事ができません。『これでいいや』って止めるわけにはいかないんです。柔軟性が問われる仕事ですね。あきらめの悪い人、しつこく取り組める人が向いていると思います」

任された以上はどうやっても直さなければならない。あらゆる可能性を探り、考えられる限りの手を尽くす粘り強さが必要。
苦労も多いが、その分、喜びは大きい。
「自分たちにしかできない仕事、ほかには直せないものを直すことができるという優越感があります」
自分がやらなければという思いが高いモチベーションになり、メカニック一人ひとりが自分の仕事にプライドを持って取り組んでいる。
転職してキムラへ
そしてメカニックから総務へ
池川さんは7年前にキムラに転職してきた。以前は自動車業界でメカニックとして働いていて、その後、精密機械の工場に勤務し、再び自動車業界に戻って来た。
「前は普通の車のメカニックをしていて、やりがいはあったんですが労働環境が厳しくて、工場に転職しました。でも決まったノルマのものを決まったやり方でやる仕事にやりがいを見いだせなくて。そんな時、キムラを知りました」
なぜ、また自動車業界に。
「自分の経験を活かせるのはこの業界かなと。1からメカニックとしてやり直そうと思ったんです。それとキムラの面接を受けた時、社長のかっこよさに憧れました。人柄も雰囲気も。このボスのもとで働きたいと思いました」

入社して3年ほどは、スキー場の圧雪車のメンテナンスなどメカニックとして現場を回った。現場でさまざまな仕事に取り組む中で、いつも感じることがあった。
「この会社には総務機能が足りていないなと。今後のことを考えると、営業とサービスが情報をしっかりと共有したり、人材を育てたりする部署が必要だと思ったんです」
そこで任されたのが池川さん。
「営業に人事、予算立て、販売計画などあらゆることをやっています。現場も好きでしたが、会社にとってこういう役割は必要ですから。今の仕事に満足しています」
忙しい毎日でも、これまでにないほどのやりがいや誇りを感じている。

仕事の現場は海外にも
そこはなんと南極⁉
キムラの仕事は山梨県内が中心だが、スキー場の特殊車両の整備は群馬まで広がっている。 海外にも仕事の現場がある。そこはなんと南極。
「5年前、南極地域観測隊が導入する圧雪車の整備をしたことをきっかけに、南極での車両の運転と整備も任されました」
担当する社員は1年の半分は南極という生活を4年間送り、ついには1年半の越冬に。 さらにもう一人の社員も別のミッションで短期間だが南極で仕事をしている。
こういうスケールの大きい仕事ができるのもキムラならではだ。

南極ではキムラが開発した大型コンテナの運搬用ソリも活躍している。
「うちならソリをつくれるんでじゃないかな」 南極で仕事をしている社員の一言を機に開発に取り組み、今では6台のソリが南極に渡っている。
ソリの開発は、キムラが描いている未来への第一歩。今後は特殊車両の整備とともに、販売やものづくりにも取り組んでいく計画だ。

「これから技術のさらなる進歩によって特殊車両もより専門的になっていくでしょう。そうなると機械系だけでなく、電気や情報などさまざまな専門分野の人材が必要になってきます」
「しっかりと人材育成に取り組み、会社を発展させていきたいと思っています。そして『特殊車両といえばキムラ』といわれるぐらいにしていきたいです」
そんなキムラが求める人材は、必ずしも経験者ではない。
「大事なのは経験よりも熱意です。どれだけ吸収しようと思って取り組むことができるか。意欲さえあれば経験も年齢も問いません。それにうちは発展途上の会社です。だからこそ、いろんな人が活躍できると思います」
ほかには真似することができない独自性に磨きをかけ、未来を切り拓いていこうと取り組んでいるキムラ。ここには、いろんな可能性に挑戦するチャンスが広がっている。

聞き手:
澤伸恭(山梨大学地域未来創造センター)
由井咲希さん(国際政策学部総合政策学科 1年生)
