甲府駅南口のエスカレーターに乗っていると、目に飛び込んでくる大きな広告看板。
昭和町のショッピングモールの映画館で、本編上映前の予告上映の中で流れるCM。
『MAYFAIR』。
この広告を見たことがある人も多いだろう。
『MAYFAIR』は、太田貿易が開いているブライダルジュエリー専門のセレクトショップだ。
「太田貿易に入った時、新事業を開発しろということで、私一人で開発課を起ち上げました。新事業を起ち上げなければ、会社の未来は見えませんでした」
そう語るのは、同社専務の太田進也さん。その新事業として10年前に起ち上げたのが『MAYFAIR』だ。
太田貿易は1979年の創業からダイヤモンド、中でも希少価値の高い角ダイヤの企画、販売を手掛けてきている。
太田さんが家業である太田貿易を継ぐために入社した13年前ごろまでは、角ダイヤをメインに事業を展開していた。
「ずっと角ダイヤに特化してやってきていたので、業界では『角ダイヤの太田』として知られています。ダイヤそのものに価値があるので、当時は特にブランド化しなくても商売ができていたんです」
「でもそれでは太田貿易に決定権や主導権がないんです。このままではこの先厳しくなるなと思いました」
そこで太田専務は付加価値をつけ、顧客満足度を高めて差別化をはかっていくことを考えた。
目を付けたのは、ブライダルジュエリー。
「ファッションジュエリーは誰もが買うニーズ商品ではありませんが、ブライダルジュエリーはその時になれば必ず買うものですよね。そしてそれなりの価格がするものです」
「ブランドもなく、顧客もいない中で始めるには、ブライダルしかありませんでした」
初めに起ち上げたのは、角ダイヤを中心としたブライダルジュエリーブランド「オレッキオ」。
その出店地として選んだのは、東京・表参道だった。
「東京で働いていた時の同僚の会社と起ち上げて、うちは製造と企画、卸をしています。角ダイヤの伝統を残していくのも当社の仕事だと思っています」
「でもワンブランドを扱うオンリーショップは、地方ではなかなか難しいものです。なので表参道を選びました」
その読み通り、現在は表参道のほかに銀座、横浜でもショップを展開し、人気ブランドに成長している。
地方だからこそ
セレクトショップ
一方で、地方での展開として開いたのが『MAYFAIR』。さまざまなブランドのブライダルジュエリーが並ぶセレクトショップだ。
閑静な住宅街の中にある『MAYFAIR』は、ゆったりとジュエリーを選ぶことができるお洒落で落ち着いた空間。
国内外の30ブランド、1200種類ものリングから選ぶことができる。
店名の『MAYFAIR』は、ロンドンの中心部にある地名に由来しているという。
太田専務は都内の大学を卒業後、修業も兼ねて都内の大手ジュエリー商社に入社し、約6年間勤務した。 その後、家業に入る前に1年余りをイギリスで過ごしている。
「ジュエリーの中心地はやはりヨーロッパということで、イギリスでいろいろ勉強しました。その時に出会ったのが、MAYFAIRという街です」
MAYFAIRはグリーンパークとハイドパークに囲まれていて、その中心には高級宝飾店舗が立ち並ぶ。自然と伝統、最先端の流行が共存する美しい街だ。
「甲府でも、そんなジュエリーと緑が融合する街の息吹を感じていただきたいという思いで名付けたんです」
会社の未来を拓いていこうと起ち上げた『MAYFAIR』には、日本を代表するジュエリーの街甲府への想いもしっかりと込められている。
ビッグカンパニーよりも
グッドカンパニーでありたい
「ビッグカンパニーよりもグッドカンパニーでありたいと思っています。多く売るより、付加価値の高いものを適量売り、競争に巻き込まれないようにやってきています」
太田専務は力を込めて語る。
「ニッチすぎないけど、ニッチであることが大事です。大きな市場の中のニッチを狙っています」
「例えば、プロ野球の代走専門の選手は食えますよね。でもセパタクローの代走専門ではニッチすぎて食っていけませんよね」
そうやって太田専務が狙い定めて取り組んできた事業は今、確かな未来を切り拓いている。
毎年上がり続けているという業績が、それを示している。
甲府駅や映画館で見る『MAYFAIR』の広告も、太田専務が仕掛けたものだ。
「今すぐお客様につながる広告ではありませんが、駅や映画館で高校生など若い世代に早い段階で『MAYFAIR』という名前をインプットしてもらえたらと思ってやっています」
直接的な商品のアピールではなく、将来的にブランドの価値を高めていく。
ここにも明確な狙いがある。
さらに、未来に向かって歩み続けているその足は、止まることがない。
「常に新しい事業を見つけていくことも大事です。今もいくつかトライしています。すべてが上手くいくわけはないのでトライ&エラーですけどね」
そう言いながら見せる笑顔からは、確かな自信が伝わってくる。
では太田専務が一緒に働きたいという思うのは、どんな人なのだろう。
「『私のインスタは1万人のフォロワーがいます』とか自分を売り込める人、そして会社が持っていない能力を持っている人ですね」
「新しい視点で提案できる人もいいですね。『今まではこうしてたけど、こうやってみるのはどうですか?』などはウエルカムです」
任された仕事をこなすのではなく、自分で考え、それを伝え、表現していく。
そんな人が専務とともに、太田貿易の明日を拓いていくのかもしれない。
聞き手:澤伸恭(山梨大学地域未来創造センター)
※2019年2月26日にインタービューを実施しました。